八日目の蝉』

恵理菜として生きる七日目で死ぬ蝉が見た世界. 薫として生きた八日目の蝉が見た世界. そのどちらの世界に母親の愛があったのか. 直木賞作家・角田光代先生の小説を映画化したこの作品ですが、永作博美小池栄子の女優陣の素晴らしい演技だけが凄く印象に残る一方で、物語としてはちょっとほころびが多い、女性による女性のための映画という感じでした. 4歳まで自分を育ててくれた母親だと思っていた女性が実は自分を誘拐した犯人という設定は面白いものの、それ以外の部分においてほころびの多いこの作品. 例えば大雨の日に生まれたばかりの幼児を残してきちんと戸締りもせずに両親が出掛けるというちょっとムリがある導入部分、違和感丸出しのエンゼル先生の大阪弁など、原作の問題なのか演出の問題なのかは分かりませんが、今ひとつ入り込めるだけの重みがこの映画には欠けているのが残念でした. ただそれを打ち消すかのように、時間が経つにつれてその素晴らしさが際立つ野々宮希和子役の永作博美さんと安藤千草役の小池栄子さんの演技. これが本当に素晴らしいこと. 特に強がって内面の弱さを隠している野々宮希和子・秋山恵津子・秋山恵理菜とは違い、男性恐怖症である弱さを全面に出しながらも恵理菜宅の冷蔵庫を勝手に漁ってはズバズバ核心を突いてくる強さを垣間見せる安藤千草の異様な存在感は凄く印象に残ると同時に、彼女こそが裏のストーリーテラーであるような気がしましたよ. また小豆島で暮らし始めてからの永作博美さんの薫と別れたくないという母親の愛の深さを物語る数々の笑顔と涙が何と切ないことか. 誘拐犯だとか不倫相手だとか関係なく、ただただ恵理菜ではない薫に無償の愛を注ぐ姿は、薫でない恵理菜に対して発狂する実母・恵津子とは違い、まさに本物の母親の愛そのもの. 昨今実子にでさえも暴力を振るうバカ親が増殖しているのに、血の繋がりよりも心の繋がりをどこまでも求めた希和子の「その娘はまだご飯を食べていません」という涙ながらの最後の言葉. あれは決して恵津子のような母親には言えない言葉だと思いましたよ. 八日目の蝉が見た世界. それは他人と違う人生を生きてきた者だけが見れる世界. 転職回数が多いから分かる大企業に勤めている人間の傲慢さ. フリーターを経験したからこそ分かる世代を超えた友情の面白さ. 引きこもりを経験したからこそ分かる周囲の無神経な言葉の選び方. 忌まわしき過去は輝かしい未来を導く原石. 忘れたい過去は新しい世界を指し示す風見鶏. 自分の生きてきた人生こそ八日目の蝉が見た世界. その世界でどんな宝物を見つけることができたのかで、その人の九日目以降の人生が決まる. 誘拐犯の母親でも確かに深い母の愛はあった. それを知った恵理菜、いや薫はこれから生まれてくる子供にどんな景色を見せるあげるのでしょうか. 深夜らじお@の映画館 は他人と違う生き方に変な誇りを持っています. ナイキアディダス アディゼロ エア グリフィー マックス ※お知らせとお願い ■ 【元町映画館】 に行こう.